不動産の時効取得とは
企画室の比嘉です。
先月ご紹介した「金龍ラーメン道頓堀店」で一つの焦点となった
時効取得について解説したいと思います。
裁判所の判断
裁判所は判決の中で
「庇と看板尻尾は土地の所有権を妨害していた」と判断し、
店側はひさしの下について「第三者の立入りを制限したり、
排除したりするような壁や仕切りを設けることがなかったから、
本件係争部分を排他的に支配しようとする意思がなく、
被告は、本件係争部分を占有していたとはいえない」
と、裁判所は指摘、
店側が主張していた“占有による時効取得”を認めませんでした。
時効取得とは
この裁判で争われた「不動産の時効取得」とは、
他人の不動産を一定期間、一定の要件を満たすよう
継続して占有する者が、
その所有権を取得することをいいます。
時効取得には、長期取得時効と短期取得時効の2つがあります。
短期取得時効は、占有を開始した時点でその物を
自分の物であると信じ、
そう信じるにつき無過失(善意かつ無過失)で、
10年間の時効期間の経過により
所有権を取得することができるものです。
長期取得時効とは、善意かつ過失なく占有した場合ではなく、
他人のモノと知りつつも所有の意志を持って、
20年間占有し続けることで所有権を得る場合のものです。
どちらの場合も時効取得が認められるためには占有の開始と、
それを起点に10年ないし20年経過した時点で
占有してきた事実を証明する必要があります。
占有開始を証明するものとしては、
例えば建物の登記や建物図面などが挙げられます。
一方、「土地の占有の継続」を主張するためには、
当該部分につき、客観的に明確な排他的な支配状態を
続けなければならないとされています。
(最高裁昭和46年3月30日判決)。
今回の判例
金龍ラーメンのケースでは、
立体看板のしっぽ部分が飛び出している部分で、
庇下の土地を占有しているのか、
また継続されてきたのかが焦点でした。
金龍ラーメン側は、ひさし下土地にテーブルを設置し、
24時間営業で客にラーメンを提供していた事実をもって、
「土地の占有の継続」があったと主張しましたが、
大阪高等裁判所は、店側がひさし下の土地を排他的に
支配していたとすることは困難で、
占有の継続は認められないとしています。
理由は、立体看板とひさしは、
店舗の主要構造部分ではないこと、
第三者が通路として通行していて、壁や仕切りなどを設置して
立ち入りを制限していなかったことで
占有とは言えないということでした。
不動産の時効取得は、その要件である継続的な
占有が認められたケースが大変少ないものです。
過去の判例を見ても、隣地との間に鉄条網を建てたり、
立て看板、年に数回現地を見て管理していた等
では占有とは認められないとされていますが、
地主、家主の皆様、不動産の管理には十分お気をつけください。
企画室 比嘉